パリ・オペラ座バレエ団『白鳥の湖』
死ぬまでに一度は観たかった舞台、今日それが叶った。
洗練の極みともいえるバレエに終始ゾクゾクと鳥肌が止まらなかった。
なぜ「エレガンス」にこれほどまでに感動してしまうのか。それは人間の根底にある野蛮な闘争本能をどこかで自覚しているからこそ、その対極にあるものに憧れて止まないのかも知れない。そんなことを思い起こさせてくれる品格の高い舞台だった。
パク・セウンのオデットは清冽、それはオディールになるとクールへと変貌する。
ジェレミー=ルー・ケールのジークフリート王子は優しい気品に溢れていた。第2幕のパドドゥでオデットをいたわり支える指の先までが、まるでハイスピードカメラで見るようになめらかに吸い付くようであった。
コール・ド・バレエの繊細かつ一糸乱れぬ青白い情景はいつまでも観ていたかった。そしていつまでも胸に残っていくだろう。
ヌレエフ版『白鳥の湖』は男性が美しい。群舞の統一感はむろんのこと、ジークフリートの迷える優しさ、そして何より、ロットバルト(家庭教師ヴォルフガングとの二役)の怜悧なサイコパス的魅力。
救われないラストもまた鮮烈に刻まれる。すべてが王子の夢想だったという心理的な演出で在り、その距離感が却って現実的でもあると感じられて、印象が強まるのかも知れない。
ふと、故 高畑勲氏の映画製作についての思想との共通項も感じた。
芸術監督は、日本でも馴染みの深いジョゼ・マルティネス。彼がダンサー時代にジークフリートを演じた映像は好んで観ていた。その後、スペイン国立ダンスカンパニーの芸術監督を経て、またパリ・オペラ座芸術監督として戻り、その体制での初めての日本公演であることも今回の楽しみのひとつだった。
今日またひとつ、“記憶の宮殿”に最高に美しいものが追加された。
いつか本当にパリ・オペラ座で観てみたい。
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パリ・オペラ座バレエ団
2024年日本公演
2月11日(日)13:30開演
『白鳥の湖』全4幕(ルドルフ・ヌレエフ版)
オデット/オディール パク・セウン
ジークフリート王子 ジェレミー=ルー・ケール
家庭教師ヴォルフガング/ロットバルト ジャック・ガストフ
指揮:ヴェロ・ペーン
演奏:東京シティ・フィルハーモニック管弦楽団
芸術監督:ジョゼ・マルティネス
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